人形の君に心をあげる。
とはいえ、彼がそのように黙ってしまうのはこの世界で生きる人間としては当然のことだろう。
上が絶対、それがどこよりも徹底された世界。
上の人間に意見するなんて、もってのほか。
特に、彼はその刷り込みが強いに違いない。
もう何十年もこの世界に身を置いているんだ。
幼いころからの習慣なんて早々に抜けるものじゃない。
...やはり、退任したとはいえ、以前の上司に意見をするのはためらわれるのだろうね
私にはそんな彼のようなバトラーの気持ちが痛いほどにわかる。
私だって、一度も上司に意見などしたことはない。
もしそんなことをしようものなら、どんな立場に自分が追いやられるか、分かったものじゃない。
彼は私に強く出れない
それを知っているからこそ...
その関係を利用する。
利用しなければいけないんだ。
このずるい立場を行使してでも遂行しなければいけない”目的”が、私にはある。
「言うことがないようなら、もういいかな?私は、花の手入れに集中したいんです。」
そう冷たく言い放つ。
我ながら、ひどいあしらい方だと感じた。
「っ...」
私のそんな態度にまたしても彼は黙り込む。
静かな時間だけが過ぎていく。
私も何も言わなかった。
その方が彼を立ち去らせるのには効果的だと思ったから。