人形の君に心をあげる。
「与えられた環境に適合して生きていかなければならない。
花はいつだってその理不尽に押し付けられた世界の中で、生き残ろうと必死なんです。」
柔らかい花びらを指で撫でる。
指で触れた花びらがそれに反応してかすかに揺れる。
そのまま茎をたどり、根元まで指を添わせる。
茎や花びらからはみずみずしさが感じられ、花が生きていることを主張しているみたいだ。
「しかし...」
根元をつかむ手に力を入れ、そのまま上に引き上げる。
「花は少し、脆すぎる。」
引き抜かれた花の根からは土がはがれ、ぽろぽろと落ちていく。
「な、何を...」
彼はその様子を見て唖然としている。
「...君も、見てみたくはないかい?
突然与えられた世界で、必死に環境に合わせようともがきながら生きていく人間の様を。
花ではなく、人間なら、きっともっと面白い観察ができると思うんです。
辻堂くん、君もそう思うでしょう?」