略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

 美郷は瞬時に、それが自分でないことを悟った。

 匠海のマンションに行ったのは事実だけれど、街に出向いたことはなかったからだ。


「それ私じゃないよ……」

「そうなんですか? 見かけたのはモデルみたいにすらっとした人だって話だったんですけど、噂は尾ひれ付くっていうし、絶対美郷先輩だと思ったんですけど」


 本当に違うんですか?、と首をかしげる理子に、美郷は答えられず過去の記憶を掘り起こしていた。

 モデルのような女性というくくりであれば、美郷も見かけたことがある。

 愛結と行ったカフェと、匠海のマンションで。

 まさかそんな偶然なんてあるわけないと受け流そうとしても、胸が異様にざわついた。

 それをダメ押しするように、理子が放つ言葉に美郷は衝撃を受ける。


「でもたしかに、見たのは遅い時間だったっていうし、先輩たしか門限ありましたよね。仕事終わりに寄るにしても、先輩じゃ難しいのかなー」


 仕事終わり、ということは、平日だ。

 しかも夜に匠海の家に向かうだなんてことは、今まで一度もなかった。
< 148 / 241 >

この作品をシェア

pagetop