略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

 匠海の帰宅時間はなんとなくわかる。

 21時を回ることなんてザラで、その頃美郷は自宅で彼からの連絡を待っていたのだから。


「だから、私じゃないよ。匠海さんとは何にもないから……それに私」

「婚約してる、でしょ? 何度も聞きましたよ」


 耳にタコだったらしい言葉を先に言われて、ずきりと胸が痛む。

 正直、そのことが頭から離れていた。

 近頃考えているのは匠海のことばかりで、彼に対する自分の気持ちがどうなのかと、見当違いなことに意識を向けていた。

 それに気づくと、たまらなく哀しい感情が胸に降り積もってくる。

 匠海への気持ちがどうであるのかなんて、美郷の将来には関わらないのだ。


「あっ、でもほんと、結城部長の関係者とは限らないですしねっ。噂って歪曲して広がるものだし」


 美郷の暗くなった表情に気づいたのか、理子は取り繕うように擁護する。

 そんな理子の気づかいも、美郷の心にはひりりと沁みるものでしかなかった。



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