略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
軽く頭を下げてその場を離れていく悦子に会釈を返す。
緊張に胸を押さえる美郷に、匠海が頼もしく柔らかな眼差しをくれた。
「失礼します」と匠海が中へ声を掛けてから障子戸を横に開ける。
途端に流れ出てきたい草の香りに、幾分気持ちが落ち着けられた。
少し段になった座敷へふたり順に上がる。
部屋には、低い椅子に腰掛け分厚い将棋盤を横にずらした年配の男性が待っていた。
着物がよく似合う白髪の男性は、以前見たときよりも少し年を重ねたようだった。
ふたりが男性の前に座るまで、何の言葉もかけられない空気がとてつもなく重く感じた。
おずおずと頭を下げて膝を折り、ふたりは男性の前に並んだ。
「新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします」
畳に手をついて匠海に倣い、美郷も同じように頭を下げる。
「あけましておめでとうございます。ご無沙汰しております、結城おじさま」
美郷は彼と面識があった。
美郷の祖父と、匠海の祖父は友人同士だ。
美郷がまだ婚約する前、祖父に連れられていった何かのパーティーで結城会長とは何度か話したことがあるのだ。