略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
 なんだか可愛い人だな……


 何事にも動じない人なのかと思っていたのに、意外な一面を見てしまった。

 「すみません」と口にしながらも、美郷は受け取ったあたたかな缶の陰に小さな笑みを隠す。

 電話越しに感じた距離など、微塵も気にならない。

 美郷のほうも、匠海のことはほとんど知らないのだと、かすかな興味をくすぐられるようだ。

 気を紛らわすようにブラックコーヒーを買った匠海が、一人掛けのソファに腰掛けると、次いで美郷も斜めに向かい合う場所に座る。

 コーヒーを開けようとした美郷に、匠海は手を差し出した。


「開けて渡せばよかったね、貸して? 可愛い爪が割れたら大変」


 膝同士がつく距離ではないのに、匠海の腕は容易く美郷に届く。

 また長い指が目の前に現れて、今度はしっかりとした鼓動を打った。


「あ、ありがとうございます……」


 缶を開けるくらいなんてことないのに、匠海の男らしさを目の当たりにして、言われるがままに差し出してしまった。

 頼もしく思えた彼への信頼が小さく芽生え、美郷に甘えを生ませたのだ。
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