略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

 会長は、陽翔と優花梨の想いを知っていた。

 けれど、結婚はさせられない。

 もし子どもができた時に、リスクのある子が生まれる可能性が高いからだ。


「子どもを作るなとも言えないだろう。まあ身内の中にはそのことをあからさまにあのふたりにぶつけた者もいるが。ふたりの心の傷は想像するに耐えんよ」


 会長が悲しそうにした理由はそれだったのかと知る。

 一体どんな言葉を浴びせられたのか、陽翔が頑なに優花梨との関係を守ろうとしているのも、そういったことがあったからなのだろうか。


「【結城】は日本でも有数の財閥だ。跡取りがいないとなると、結城の中が混乱することは目に見えている」


 世襲制度は、そう簡単に崩せない。

 後継者がはっきりと決まっていれば、身内内での権力争いもないのだろう。

 陽翔も言っていた。

 なんのリスクもない妻が必要なんだと。

 けれど、優花梨を想う気持ちは捨てられない。

 美郷と陽翔が結婚しても、子どもは匠海の子を産めばいいと言ったのは、もしかしたら陽翔なりに【結城】のことを考えての発言だったのかもしれない。

 【結城】を支えなければいけない責務と、自分の中にある愛のどちらもを守るために。

 だからこそ、美郷との結婚を進めようとしていたのだ。

 美郷も匠海も、それ以上は何も言えなくなってしまった。

 陽翔が抱えているものは、思っていた以上に重いものだったからだ。
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