略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

「美郷さん、将棋はできるかね?」


 黙ってしまったふたりを見かねたのか、会長は空気を変えるように明るく言った。


「あ、はい、昔よく祖父とやっていました」

「一局お相手願えますかな?」

「はい、私でよければ」


 会長は自分の前に将棋盤を戻し、駒を並べ始めた。

 匠海と目を合わせると、やってみて、と言ってくれている眼差しに頷いた。

 会長の前に出ると、先攻を譲られた。

 将棋なんて何年ぶりだろうか。

 頭の回転が良くなるからと、祖父に教わったのはまだ小学校低学年の頃だったような気がする。


「美郷さんは、匠海のことを好いているのかい?」


 二、三手進めたところで、会長は唐突に聞いてきた。

 次の手を考えていたのに、瞬時に思考が止まってしまう。

 ぽっと頬を染め身を固くしてから、小さく頷いた。


「はい、私のことをとても大事にして下さるので」

「そうか」


 考えてみれば、陽翔と婚約しているのに、匠海をどれだけ好きかを語るなど言語道断のはずだ。

 それなのに、会長は反対することもなく自然とそれを受け入れてくれているようだ。


「匠海と一緒になりたいと、思っているかね?」

「……はい」


 まるで、誓いの言葉を言わされているようだ。

 目の前の会長は、いわば神父のよう。

 美郷の気持ちをたしかめられているのだ。

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