略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~

「今度は何やらかしたんですか?」


 理子は美郷に耳打ちすると、にやにやと目を細めながらそこから離れる。

 何をしたと聞かれても匠海が不機嫌な理由なんてわからない。

 やっぱり楽しそうにしながら、理子はひらひらと手を振ってひとりで外に出て行ってしまった。


「ちょっと話いい?」

「は、はい……」


 断ることなんてしなかったと思うけれど、低い声が叱られる予兆のようで、受けてしまったことに若干の後悔を感じた。


 駐車場に着くまでもずっと無言の匠海。

 昨夜は本家に行くからと、おやすみのメッセージを交換しただけだった。

 とくに何か気に触るようなことをしたとも思えないのだけど、何も言ってもらえない時間は不安になる。

 誰の姿もない駐車場の片隅。

 この前のように、どこかランチに出るのかと思っていると、誰の目にもつかない白い車の陰で、突然両方の二の腕を掴まれて身体が車体に押し付けられた。
< 234 / 241 >

この作品をシェア

pagetop