略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
「ごめんなさい、本当に……匠海さんの気持ちは嬉しいんです。でも……」

「わかってる。君が婚約者のこと大切に思ってるってことも」

「そ――……」


 “そうじゃない”と言いそうになり、慌てて口を噤む。

 匠海の気持ちを無下に扱いたくなかった。

 否定したところで、その気持ちに、自分の心を重ねられるわけはないのに。


「すみません……」


 庇う言葉を見失い声を落としてうつむくと、匠海もまた静かに言う。


「こっちこそ、いつも困らせてごめん」


 いつもと違う低い声音は、彼の本当の声だと思った。

 どんな悲しい顔をさせてしまっているのかと顔を上げると、頬杖をついた匠海はまだ美郷を見つめたままだった。

 憂いを帯びた琥珀の瞳に、胸の窮屈さが格段に増した。


「遅くまで付き合わせたお詫びに、家まで送るよ」


 それを取り繕うように、匠海は憂いを隠してにこりと微笑む。


「そんな、申し訳ないですっ。私は仕事をしたまでで……」


 掌を小さく振りながら最後まで言いきらないうちに、匠海はすっと立ち上がって美郷から目を離した。
< 27 / 241 >

この作品をシェア

pagetop