略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
 自販機の方へと向き直り、その一瞬に見えた陰った表情。

 美郷は自分が放った言葉に表裏する意味に気づき、酷い後ろめたさに襲われた。

 零れた言葉を掌で押さえようとしたところで後の祭り。

 匠海とは、あくまで仕事上の関係でしかないと言いきったようなものだ。

 美郷の後ろを回り、匠海は飲み干した缶をダストボックスへ捨てる。

 落とされた缶のぶつかる音が、なんだか彼の心にヒビが入った音に聴こえた。

 その背中を追うように見つめると、「あの……」と弱々しく声を掛けていた。

 ごめんなさい、とでも謝るのか。

 でもそれは、気休め程度に自分の胸を楽にしたいだけだ。

 実際、ふたりを繋ぐ関係性は“仕事”以外ありはしないし、あってはいけない。

 それなのに、胸に漂うこの苦さはなんだろう。

 かける言葉を見つけられずに、こちらへ戻る匠海を見上げる。

 美郷を見つめてきた彼は、驚くことに傷ついたような表情もせず、目を細めて微笑んでいた。
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