略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
「いえ、あの、私が不慣れなだけで……匠海さんには大変なご面倒とご迷惑おかけして、申し訳ありません」


 美郷は自分の醜態を大いに恥じながらも、鼻血を垂れなかっただけましだと思った。


「謝ることはないさ。面倒だなんて思わないし、おかげでこうやって、もう少し長く美郷ちゃんと居られるわけだし」


 無邪気に微笑む横顔は、また美郷の心に複雑な思いを抱かせる。


「どうして匠海さんは、私相手なんかに喜んでくれるんですか。
 きっとこの先も、私は匠海さんに応えられません。喜んでもらえるようなお返しなんてできないのに……」

「それは、俺がなんで美郷ちゃんのことを好きなのか訊いてると理解していい?」

「えっ!?」


 思いがけない返しに、美郷はさらなる困惑に襲われる。

 なにもそんなつもりで訊ねたわけではなかった。

 美郷の務める銀行に出入りするいち商社マンである匠海に、わざわざ好かれるようなことをした覚えはない。

 自分からアプローチするようなこともなかったし、これと言って何か特別な対応をしたつもりもない。

 それなのになぜ匠海が構ってくるのか、単純に湧いた素朴な疑問だっただけだ。
< 34 / 241 >

この作品をシェア

pagetop