略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
『妹さんもやっぱり、美郷ちゃんが婚約者以外の人と会うのには反対なんだね』

「あ……いえ、そうではないみたいで」

『あれ? てっきり怒られたのかと思ったけど』


 肩透かしを食らったような匠海に、美郷は素直に答えてしまった自分を恨む。

 家族に匠海との関わりを反対されていると言えばよかった。

 そうすれば、今以上の繋がり方を拒否する理由ができたのに。

 そう思った美郷は、今までとは違う“匠海を拒否する理由”を探していることに、はっとした。


『もしかして、案外俺のアプローチも悪あがきではなかったってことかな』


 匠海は、ふふ、と電話の向こうで笑いを零す。

 彼は“諦める”という選択肢を放ったように思った。


「匠海さん……」

『うん?』

「だめです、やっぱり。匠海さんがどんなに頑張ってくれても、私……」

『そんなに好きなんだ、婚約者のこと』

「え……」


 真剣な声音を繰り出した匠海に、言葉が詰まる。

 
『優しい? 婚約者の彼は。俺なんかより』


 胸がひやりと怯える。

 匠海の質問に答えられない。

 婚約相手のことは、何も知らないから。
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