略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
普段より随分と謙虚な姿を見せる匠海。
彼は彼なりに、美郷との繋がり方を試行錯誤していたのかもしれない。
こんなに嬉しそうにされてしまうと、匠海を拒否している自分がとても冷たい人間に思えてくる。
けれど当然それ以前に、自分には正当な関係を結ぶ相手がいる。
会ったことはないけれど、婚約者という一番近しい人以外に異性と親密な関係を築く必要はないのだ。
そうだとわかっているのに、匠海との間に不思議な距離感が生まれた気がする。
自分を好きだと言ってくれて、婚約者がいても構わず奪おうとしている人。
もう【ただの取引先の部長】という肩書きには当てはまらないような気さえしてきた。
美郷の人生において初めてできた名前のない関係性に、戸惑いを隠せなかった。
『このまま一晩中でも話していたいな』
「そ、それは困ります……隣は妹の部屋ですし、声が……」
『聞こえなければいいんだ?』
「そういうわけでは!」
焦って否定すると、それもわかっていたかのように笑われる。