略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
いつもと変わらないはずの匠海の来行。
朗らかに微笑む匠海の爽やかさが、慌ただしい週始めの銀行の一角を、そこだけゆったりとした眩しいオアシスのように見せていた。
話し声は聞こえないものの、肩を揺らす匠海の様子に、美郷までも笑みをつられる。
いつもよりも強く感じる匠海の存在感に、美郷の視線は留まったままだ。
「先輩っ。美郷先輩ってば!」
唐突に名前を呼ばれ振り向くと、理子が隣の席から美郷の制服の袖を引っ張っていた。
「え? あ、何?」
「何じゃないし、結城部長に見惚れてる場合じゃないですよ」
「べ、別に見惚れてなんか……っ」
「お・茶! 出さなくていいんですか? 私が行っちゃいますよ?」
ニタニタとしたいやらし気な顔で、理子が美郷を急かす。
「あ、うん。お願い」
「もうっ、お願いじゃないでしょ! 美郷先輩が行かないと結城部長が残念がるじゃないですか」
後輩のくせに、お茶出しは先輩に押し付ける理子。
特に不満はないが、彼女の企みが匠海のためだというところは腑に落ちない。