剣心一如!~「教えてやろうか?恋の仕方」─香取くんの恋愛指南は辛く厳しく、超絶甘い!?

「星宮…」

 彼女の名を呟くと、俺は震える唇で彼女のそれにそっとそっと触れる。

 柔らかな感覚。

 頭の中が痺れるような。


「あ…」

 咄嗟に逃れようとする星宮の顎に添えた指に力が入る。


(行かないで…)


 そしてそのままぎゅっと唇を押し当てた。身体中の力全部を唇に注ぐように。

 優しく巧みに導いてあげられればいいのにそんな技量は持ち合わせているわけなくて、ただただ無駄に重過ぎる想いをぶつける。


(星宮…

 俺、お前じゃなくちゃ嫌だ!誰にも渡したくない!!)


 有り余る感情が俺を煽る。
 もっともっと星宮が欲しくて更に強く深く口付ける。


「んんっ…」


 少し苦しそうに星宮の声が漏れた。

 それでも俺は離したくなくて、肩を掴む手に力を込める。


(好きだよ、星宮…)



 やがて長くて短い時が流れ、拙くて幼い口付けを終える。

 ゆるゆると離しかけた唇が完全に分かちてしまう前に俺は離れ難くてもう一度唇を重ねた。
 そして二度、三度…


 身体を離すと星宮が静かに眼を開ける。切なく煌めく瞳に俺が映る。


「香取、くん…」


 俺の名前を口にするとその瞳はゆらゆらと揺らめき、ひとひらの雫が零れて落ちた。


(!!)


 涙の粒が頬をぽろぽろと転がってゆく。そして星宮の肌を離れて落ちた瞬間に、鋭い刃となって俺に刺さる。


(ごめん…)


 心ではそう思うのに、彼女を傷付けてしまった事実に怯えて、本当の気持ちが言えなくなる。
 

「…このくらいで泣くなって

 好きなヤツと付き合えてもこんなんで泣かれてたらあっさり愛想つかされるぞ」

「…ごめん」


 親指で星宮の頬を拭う。
 言葉とは裏腹に震える指で慎重にそっとそっと触れた。涙で濡れた頬はまるで触れると溶けてしまいそうだったから。


「…早く慣れて」


 刃が貫く胸が痛くて苦しくて、俺は捨て台詞を残し逃げるように去った。

        *
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