星降る夜の月
思ったよりも人がいる。
もしかしたら、高校の人もいるかもしれない。
私服だから気付かないでしょ、と自分を納得させて桜の中に入った。
ああ、いいな。
思わず写真を1枚撮る。
満開の時にも撮っておけばよかった。
もう本当に少ししかないのに、誰もが桜の最後を見届けようと眺めている。
緑の中に、1点の薄ピンクを見つけ出している。
健気だ。
桜は、無垢だ。
ラフレシアやパンジーのように飾らないところが大好きだ。
「……あの、これ落とされましたよ。」
不意に声を掛けられた。
振り向くと、お母さんと、その後ろに俯いて待っている女の子がいた。
手にはカメラのケース。
「……あ、ありがとうございます。」
「……偽善者。」
は?
「……ナオ、何を言っているの?」
目の前で母子喧嘩が勃発しそうだ。
帰ろう。
そう思ったのに、私は言葉を発していた。
「あんた、何なの?」
ナオっていう女の子はキッとこちらを睨みつける。