王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
私は薬の匂いがする部屋の扉に耳を付け、慎重に中の気配を窺う。人の気配はなさそうだった。
万が一中に人がいれば、不法侵入をしている私の身の上が危うい。
耳を澄ませば、居住部分に移った今も、店の方から客と女性の言い合う声が聞こえる。
……たぶん、誰もいない。
女性は、夫は往診に出ていると言っていた。それにもし中に誰かいれば、とっくに女性の援護に出て来ているだろう。
だから恐らく、大丈夫だろうと踏んだ。
それでも実際に扉に手を掛ける時には、緊張で指が震えていた。
一か八かの賭けではある。それでも、私は扉を開けた。
キィィィイイーー。
忍ぶように、ゆっくりと扉を引いた。
扉を引き開けた瞬間に、私はホッと安堵の息を吐いた。室内に人はいなかった。そうして予想通り、室内は調薬と事務作業に使っているようだった。