王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~


 私は薬の匂いがする部屋の扉に耳を付け、慎重に中の気配を窺う。人の気配はなさそうだった。

 万が一中に人がいれば、不法侵入をしている私の身の上が危うい。

 耳を澄ませば、居住部分に移った今も、店の方から客と女性の言い合う声が聞こえる。

 ……たぶん、誰もいない。
 女性は、夫は往診に出ていると言っていた。それにもし中に誰かいれば、とっくに女性の援護に出て来ているだろう。

 だから恐らく、大丈夫だろうと踏んだ。
 それでも実際に扉に手を掛ける時には、緊張で指が震えていた。

 一か八かの賭けではある。それでも、私は扉を開けた。

 キィィィイイーー。

 忍ぶように、ゆっくりと扉を引いた。

 扉を引き開けた瞬間に、私はホッと安堵の息を吐いた。室内に人はいなかった。そうして予想通り、室内は調薬と事務作業に使っているようだった。



< 151 / 284 >

この作品をシェア

pagetop