王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
私はノートを、自分の肩に掛けていた大判のスカーフに手早く包むと、入ってきた扉に向かって踵を返した。
「っ!!」
けれど振り返ったところで、息を呑んだ。
扉に、男がいた。
「家人に無断で家捜したぁ、油断も隙もねぇなぁ。とんだ泥棒猫がいたもんだぜ」
私を見つめる男と、視線が絡む。
男は私を見つめたまま、にやりと口角を上げた。
圧倒的な恐怖が襲い、一気に血の気が引く。ノートを持った手が、ガクガクと震えていた。
「あんた、どこに消えちまったかと思えばこんなところにいたとはねぇ」
っ!!
男性の後ろから、女性が顔を覗かせる。女性の表情は、客として向かい合っていた時とは百八十度違う、険悪に歪みきったものだった。
途中までは、ずっと神経を張り巡らせていた。店から途切れ途切れに聞こえてくる客と女性の声を、聞き漏らすまいと集中していた。
けれど目の前の帳簿に気を取られるあまり、途中からすっかり状況把握が疎かになってしまった。
一体いつ男性客が帰ったのか、いつから見られていたのかも、分からなかった。私は二人の視線に、今の今まで、まるで気付いていなかった。