王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
迂闊だった自分に遅すぎる後悔をしてみても、状況の打開にはならない。私は、必死で頭を巡らせた。
けれど極限状態にあって頭の中は真っ白で、それらしい言い訳のひとつも浮かんでこない。
「ハンッ! テメェは店番もまともに出来ねぇのか」
「お前さん、そりゃあ言いっこなしだよ。こっちだって、一人でこの娘と言いがかりつけてくる客の相手で、それどころじゃなかったんだ」
「……まぁいい。過ぎた事を言っても仕方ねぇ。見られちまったんだ、口塞ぐっきゃねぇ」
不穏な会話も極度の緊張状態にあって、耳を素通りした。そうこうしている内に、扉にいたはずの男が、一歩、また一歩と私に向かって歩み寄る。
「この泥棒猫が、無駄な手間ぁ掛けさせやがって。なぁに、心配しなさんな。オメェが無駄な抵抗をしなきゃ、ひと息で楽にしてやらぁ」
語られた内容の薄ら寒さに、底冷えがした。男は私との距離を詰めながら、途中で壁掛けに吊るされていた縄のような物を手に取った。
恐怖で心臓が、ギュッと縮む。
けれど、命の係るこの状況で、震えてばかりもいられない。私に選択肢は、残されていなかった。