王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
「いや、いってくる」
やっと重い腰をあげ、フレデリック様は扉に向かう。けれど扉の前で立ち止まると、私を振り返った。
「その、エミリー? くれぐれも無理はせず、安静にしていてくれ」
僅かな逡巡の後、躊躇いがちに告げられた台詞に苦笑が漏れる。
言葉の裏に滲む、フレデリック様の意図。フレデリック様は、自分の居ぬ間に私が出て行ってしまう事を心配している。
「フレデリック様、マキロン先生ともお約束した通り、十日間は絶対安静で過ごさせてもらいます」
少なくとも私は、世話になったまま礼のひとつ、挨拶のひとつもしないまま出て行く不義理はしない。
それくらいの常識と、最低限の礼節は備えているつもりだ。
「ですからもう少し、フレデリック様の好意に甘えさせてください。ここで、お世話になります」