王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
アイリーンの失踪以降、兄はまるで生きる屍のようだ。
「兄さん……」
俺は掛ける言葉に窮した。
俺はかつて、兄がアイリーンを失踪に追い込んだ状況を人伝に聞いた。
兄とアイリーンは婚約者と目されていたが、正式な結納の儀は済ませておらず、当時の状況は事実上の婚約だった。
アイリーンは肌こそ荒れていたが、当時から均整のとれた肢体に、優美な所作を身に付けた淑女だった。節操のない貴公子らがそんなアイリーンの体つきに目を付けて、輪になって卑猥な話に興じているのを兄は耳にした。
そこで兄は『あんなあばた顔の女を、女として見られるか』と、そう吐き捨てた。王太子である兄の言葉に、周囲からはそれもそうだと、一斉に嘲笑が湧き起こったそうだ――。