王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
小さなため息が、父の隣の兄から上がる。
「……父上、桃の件は私からも農園主に頼んでみます。ですので桃は、今回は諦めましょう?」
兄が、慰めるように父の肩を抱き、反対の手でそっと桐箱を取り上げる。
「しかし、しかしっ。こんなにも艶やかで大きく、こんなにも瑞々しい桃など……」
「父上、抗ったところでフレデリックに敵う余地などありません。ならば素直に差し出し、恩を売った方が余程に賢いというものです」
兄が諭すように父の耳元で囁きながら、父から取り上げた桐箱を俺の方に寄越す。
「うっ、うぅぅううっっ……」
兄の説得を受け、父は不承不承ながら、首を縦に振った。
父の震える背中を横目に、俺は決意を新たにしていた。一国の王が桃で一喜一憂し、涙する……。サントマルク王国は、軍隊の国外派兵など縁遠く、平和なのだ。
かくして俺は悲痛な父の涙と引き換えに、献上品の桃を手にしたのだった。