王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
「無邪気に微笑む幼い貴方を、確かに私は愛していたの。だけど私は、主人の血を継がない貴方が怖かった。いいえ、怖かったのは貴方じゃない。夫に似ない貴方を見るたびに、私のした愚かな行動を思い知らされて、辛くってたまらなかったの」
「いいや、英子。君だけが悪いんじゃない。忙しさに甘え、新婚の家庭を長く空け過ぎた俺もまた同罪だ」
……肩寄せ合う両親の温度が、随分と高い。英美里が最後に両親と顔を合わせてから、十年以上の月日が流れている。
移ろう年月が、変えたものもあるのだろう。
「……英美里、酔った勢いとはいえ、俺が取った行動は、本当に申し訳なかった。言い訳になるが、俺は普段、君をそういった目で見た事は一度だってない。君は俺にとって、あくまで娘だ。本音を言えば、どんなに努力をしても感情的に娘と思いきれない部分も多かった。だが、君は英子の娘だ。ならばそれはやはり、俺の娘なんだ」
「あなた……っ!」
英美里からすれば、寸分の慰めにもならないような陳腐な謝罪はしかし、嘘偽りのない二人の心であるらしい。
……なんだかなぁ。
私自身、あまり傷ついていない事が意外だった。けれど、ストンと納得出来た部分もあった。だって私は、英美里であって、本当の英美里じゃない……。
この時の私の心は、とても一言で言い表せるものではなかった。ただひとつ、眼下で繰り広げられる両親の謝罪合戦と恋愛模様が、英美里の目に映らずに済む事は幸いと思えた。