王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
鍛冶屋と言ってもその収入は、近所から頼まれて包丁を研ぎ、僅かな駄賃を手にする程度だ。そんな状況で、一家が薬代にお金を回すという事は、とても難しい。
「それでエミリー、今回のお代なんだけど……」
「あぁ、そんなのはいーの、いーの。困った時はお互い様よ」
「いや、だけど……」
「いーの、いーの。あ! だけどもし、また山で珍しい薬草でも見つけたら摘んできてちょうだいよ。こないだのゲーリピタン草とか、すっごく助かっちゃった」
ゲーリピタン草がなんの薬になるかって? そんなのは、言わずもがなだ。
「そんなのはお安い御用さ! それじゃあエミリー、ほんとにありがとな。恩に着るよ」
アンソニーは何度も礼を繰り返し、薬袋を懐に宝物のように抱えて帰っていった。
私は一人になると、やるせなさに溜息を吐いた。