王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
私の声を受けて、父の肩が僅かに揺れる。父が、ゆっくりと私を振り返る。
父と私の目線が絡む。
父と最後に顔を合わせたのは、五か月も前の事だった。季節はおよそ半周巡り、その間に私は幼稚園の年少に上がっている。今、私が身に付けている幼稚園の制服は、一度も父に見せた事が無かった。
私は父から掛けられるであろう言葉を想像して、うきうきしていた。幼稚園に行けば、友人らが自慢げに話す「肩車」も「高い高い」も、私はしてもらった事が無かった。
けれど、父が微笑みを向けてくれれば、それだけで十分だった。
「……いってくる」
ところが父は、私に微笑みかけるどころか、これ見よがしに顔を背けた。そうして母に靴ベラを押し付けると荷物を掴み、逃げるように家を出て行った。
「あ! お気を付けて」
母が慌てて、扉が閉まりきる前に、父の背中に向かって声を掛ける。そのまま父は、行ってしまった。
立ち尽くしたまま、私はその場から動けなかった。
……どうして?
父は無表情で、笑みのひとつも浮かべてはくれなかった。……いや、無表情じゃない。
父の眼差しに含まれていたのは、明らかな侮蔑だった。とても我が子に向ける物とは思えない、凍てつく目だった。