王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
「……英美里? お母さんが会っているのは、いつも同じ男の人なのか?」
父が顔色を曇らせた事に、私は欠片も気付かなかった。
「うんっ、同じ」
「お母様はそのお友だちとよく会っているの?」
語る父の声が低くなっている事にも、同様に気付かなかった。
「うん」
「いつもどこで会うの?」
「うーん。お部屋」
「……お部屋って?」
随分と長い間を置いて問いかけられた。
子供ならではの無邪気さと無頓着が、今では憎らしくさえ思える。思い返せばそれくらい、これを問いかけた父の様子は尋常ではなかった。
けれどいくら後悔したところで、過去を遡ってやり直す事は出来ない……。
「おうちに、行くよ」
だから記憶の中の私は、何度だって無邪気に父にこう答える。
この言葉の直後、父は席を立った。
「お父さん?」
見上げた父はもう、これまでの父と同じじゃなかった。私を見下ろす父の目が、父親の目ではなくなっていた。
……不思議な事に、私はこの日のこれ以降の記憶を持たない。まるで抜け落ちてしまったかのように、その部分だけががらんどうなのだ。