王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~


 そうして翌朝から、私の世話の一切は手伝いの女性が担うようになった。
 父はもう、食卓にも、居間にも、家のどこにもいなかった。年に数回、思い出したかのように帰宅するだけの父。私は段々と、父という存在を忘れていった。
 優しかった母も同様に、もういない。いるだけの母はいつしか、同居人になり果てた。

 ……母の「お友だち」にもそれ以来、一度も会った事はない。「お友だち」は、ホストの男性だったらしい。
 嫁いだものの、仕事で家を空けがちな父に寂しさを募らせた母が、興味本位でホストクラブに足を運んだのが切欠。
 そうして母はホストの男性に入れあげて、どちらの子とも分からぬ子供を妊娠した。もしかすれば母には、父の子だという確信があったのかもしれない。
 けれど母は賭けに破れ、生まれたのは「お友だち」の子供。今から思えば私の容姿は「お友だち」に瓜二つで、父にはまるで似ていない。だけど父は我が子と疑いもしなかったし、子供が生まれても相変わらず留守がちだったから、母はそのまま「お友だち」との逢瀬を楽しんだ。自分の子と聞かされた「お友だち」が一時、私を可愛がってみせたのも事実だ。

 けれど結局、その「お友だち」も、岩蔵の家から口止め料という名の手切れ金を受け取り、嬉々として姿をくらましたというのは、随分と後になって風の噂で聞いた。



< 77 / 284 >

この作品をシェア

pagetop