王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~
翌朝、起きて来た母に伝えれば、母は私を見下ろしてたった一言「口外するな」と言い放った。
母は、あからさまな嫉妬心を隠そうとしなかった。
かつて、若く美しかった母も、月日と共に老いる。「お友だち」の一件の後、離婚を選ばずとも、当然父との夫婦関係には大きな溝が出来た。
父が結婚という体裁だけは保ちながら、外に愛人を作っているのは既に周知の事実だ。しかも父は、当てつけのように母とは別の女性に子供まで産ませている。
そんな父に、母が何を言える訳もなく、ただ静観していた。
けれど四十を過ぎたあたりから、母に変化が起こる。母の心の内は分からない。けれど母は、再び父に顧みられたいと望み始めたようだった。
稀に帰って来る父への接し方を見れば、それは瞭然だった。
そんな母にとって私から告げられた内容は、きっと悪夢だったに違いない。
「……お母さん。これも全部、私のせいって思ってる?」
私に背を向けて居間を出ようとする母に、気付けばそう問いかけていた。
必要以上の会話など、もう何年もしていない。その母に向かって必要以上の言葉をかけてみたのはきっと、普通じゃない精神状態だったから。
普通じゃないからこそ、私は何か、慰めが欲しかったのかもしれない。
「そうね。お前さえいなければ、……いいえ。もしもお前が、あの人の子だったらっ……」
母は言葉を詰まらせて、グッと拳を握り締めた。その拳が、背中が、小刻みに震えていた。