MAN of DESTINY王太子の執拗な求愛

    
「帰ってくるさ、約束したし、な!!」

「ウッウッウッウッううう」

「泣くな!ロザリー。
 美桜もやらなきゃいけない事が
 あったんだよ。」

ボブはロザリーの広い背中を
何回も撫でて慰めた。

「だっだってウッウッ、
 寂しいじゃないかあ~あ 
あああ~」

ロザリーの泣き声は切なく
山畑にこだまするようにかえってくる。

ボブもロザリーも自分の娘を
旅立たせたような、
胸を押さえ込むような悲しみに
襲われていた。


ボブも寂しいのは同じだった…。
ただただ
ロザリーの寂しそうな身体を
撫で唇を噛んで我慢した。

「悲しい時に泣けるのは
女の特権だな。
 羨ましいよ。」

今にもこぼれ落ちそうな涙を
じっと我慢する。
男は泣くもんじゃない。
幼少の時、母から口うるさく言われて
育った。

なら神はなぜ男にも涙を賜らせるのか?

体を丸めエプロンで顔を覆い、
所構わず泣くロザリーは
ボブの分まで泣いてくれて
いるようだった。

美桜も高い丘の上から住み慣れた
ガラシアンの街、村、山をながめた。
あとからあとから飛び出す涙を
  両手でゴシゴシと拭く。

さようなら!ガラシアン
楽しかった、ハイジ生活。

泣くのは今限り、俺は男なのだから…

丘のうえから力いっぱい叫ぶ。


    ««あーあーあー»»
《《俺はーは男になったーあ

ぞぉー。》》






美桜が居なくなって3日目
朝がきて夜がくる。
そんな寂しい毎日が始まった。

上下紺色のスーツできめたクロードが
黄色いフリージアの百本の花束を抱えやってきた。ザブラルブルグでは自分の好きな花を百本抱えてプロポーズする習わしがある。

すこし緊張気味にドアを開ける。

「美桜いるかい。」

クロードの突然の成り立ちに全員驚いていたが、ナタリーが重い口を開いた。

美桜は記憶を取り戻し
里へ帰って行ったと説明したが、
里はどこかと詰め寄られた。
本当に知らないので
返事のしようがなかった。

クロードは怒り悲しみ、
フリージアの花を力一杯ぶりまいた。

フリージアの甘い香りの花びらががそれぞれの寂しさを慰めるように飛び散らばり、黄色い花は美桜を思い出すのに、
悲しい程似合っていた。

クロードは静かになにもいわずポケットの小さな箱を握りしめながら…
唇をきっく噛みしめて

    静かに出て行った。

そんな息子の姿を眺めながら王后としてはホッとしたような、母としては可哀想な空しい気持ちがよぎる。

美桜が居なかった2ヶ月前に戻っただけだと、自分に言いきかせながらフリージアの花を一輪一輪拾い始めた。


美桜を行かせた事を半分悔やみながら、半分クロードの王太子との身分を安堵考しながら、

辛い選択は天に任せるしかない。
どうにもならない事なのだから‥


ナタリーの目には潤んだ涙が今にもこぼれ落ちそうだった。

















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