十日月夜のおとぎ話
ワイシャツの襟の下を通して、前に持ってくる。


他人の首にネクタイを結ぶなんて初めてで、調子が狂う。


もたもたしていると、サクの視線と絡み合ってしまった。


サクは今まで見たこともないぐらい優しい目であたしを見つめている。


その視線から逃れようと、あたしは急いでネクタイを結んだ。


それは随分不恰好だったけど、今のあたしには精一杯だった。


もう、一刻も早くサクから離れたい。



「できたよ」


「サンキュ」


「じゃ。あたしの返してよ?」


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