死神王と約束の騎士
第二王女ノエル
--夜
昼間城下で第二王女が革命を宣言するという騒ぎが起こったものの、夜の王宮では予定通り舞踏会が行われていた。
普通であれば中止になりそうなものだが今は他国からも大勢の賓客が来ている。
何事もなかったようにすることで昼間の出来事を少しでも人々の記憶から消し去りたいと国王たちは考えた。
さらに、第二王女ノエルの支援をする貴族達を炙り出す目的もあった。
貴族達はいつも以上に気を張って談笑している。
相手がいったい誰についているのかを見定めるためだ。気づけば大広間は三つのグループに分かれていた。
一つは国王を支持するグループ、二つめは第二王女ノエルを支持するグループ、そして三つめはどちらにつけばよいか悩んでいるグループであった。
国王派は王女派の数が意外と多いことに驚いていた。
なによりも、蔑ろにはしないものの、決して第二王女に好意的ではなかったスフィア侯爵が王女派の元にいることが驚きであった。
他にも、かなり権力を握っている貴族や騎士団の人間が王女派であることが発覚し、王女側につこうかと思案する者も多くいた。
ガチャツ
「第二王女、ノエル様がおつきになられました。」
衛兵の声が大広間に響きわたった途端、大広間は水を打ったように静かになった
誰もが声を発さず、入口を凝視する中、ノエルは堂々と大広間に入ってきた。
今まで大広間にいてもうつむいているだけだった第二王女の姿は見る影もなく、誰よりも美しい王女の姿がそこにはあった。
透き通るように白い肌、艶やかな髪、何より目を引くのはその赤い瞳だった。
見るもの全てを惹きつけるその赤い瞳は強い意志をたずさえている。
「ノエル王女、」
「オーディン、こうして直接話すのは久しぶりだな。マリナは元気か?」
「…元気もなにも、元気がありすぎるといいますか…」
「クスッ)元気そうでなにより。これからお前達にはたくさん迷惑をかける。それでも付いてきてくれるか?」
その言葉に王女派の者達は全員頷く。
「我らは全員貴方様に救われた身。この命ある限り貴方様にお仕えいたします」
スフィア侯爵が代表してそう誓うと、王女派の者達は全員ノエルのもとに跪いた
「お前達は大切な仲間。決して無駄死にさせたりしない」
「大広間においでの皆様、お初お目にかかります、フェリシア王国第二王女のノエルです。昼間はお騒がせして申し訳ございませんでした。今夜はパーティーをゆっくりお楽しみください」
ノエルがそう言うと静まり返っていた大広間は、パーティーであったことをいま思い出したかのように賑やかさを取り戻した。
「お前達もパーティーに戻りなよ」
ノエルが声をかけると王女派もパーティーに戻っていった。
「…ふぅー、こんなに大勢の前で話すのは初めてかも」
「お疲れ様でございます。」
「オーディンもどっか行ってきたら?」
「そんなに私のことを追い出したいので?」
「そんなことないけど」
「お父様、」
「ほら、娘が来たぞ」
「エレナ、ノエル様に挨拶なさい」
「オーディンいいってば、」
「…いえ、ご挨拶させてください。ノエル王女、改めましてオーディンが娘、エレナにございます。本日はお話があります」
思わずノエルはオーディンを見るが、話というのはオーディンも初耳のようで眉間にシワがよっている。
「…話というのは?」
「はい、私を…私を貴方様の侍女にして頂きたいのです!!」
--「えっ?」
「昨日は危ないところを助けていただいて本当にありがとうございました。そして今までの非礼をお許しください。」
「…それは構わないのだけれど、」
「今までさんざん酷いことをしてきたのは分かっています!でも私は貴方様の侍女になりたいと昨日強く思ったのです!ですからお願いします!私を貴方様の侍女にしてください!!」
今までさんざん悪口を言っていたエレナに突然そんなことを言われるとはノエルも思わなかった。
困惑したノエルは助けを求めるようにオーディンを見る
「、オーディン、このことは…」
「初耳です。エレナが侍女になりたいなど…!」
次にノエルは横に控えていたゼノンに声をかける
「ゼノ、どうしよう」
「どうするもなにも、あんなにノエル様を酷く言っていた女ですよ?協力者の娘とはいえ今すぐ処刑すべきかと」
「…」
--ダメだ。ゼノは過激すぎる
ノエルが途方に暮れているとき--
「私からもお願いいたしますわ、ノエル様」
「っ、オーディン!!マリナが来ているなんてお前一言も…!」
「ノエル様、そんなこと言わないでちょうだい」
「うっ、マリナ…」
「…申し訳ございません、ノエル様。マリナがどうしてもというので…」「…相変わらずスフィア家の支配者はマリナであることがよく分かった」
「…」
「お母様!どうしてこちらに?お手紙を領地の方に送りましたのに」
「大丈夫よ、手紙を貰ってすぐにこちらに向かったの」
「来なくてよかったのに…」
「ノエル様、なにかおっしゃりました?」
「…イエ、ナンデモナイデス」
--私、ノエルはオーディンの妻であるマリナ·エレン·スフィアが嫌いではない、嫌いではないのだが…
なぜか逆らえない。
「オーディン、せめて自分の妻ぐらいコントロールしてくれ」
「…国をコントロールすることの方が簡単です」マリナ·エレン·スフィア--前スフィア侯爵家当主の唯一の子供であり、オーディンを婿養子として迎えた。
侯爵家当主はオーディンであるが、スフィア侯爵家でマリナに逆らえるものは誰もいない。
真の権力者はマリナなのだ
「--それで、なぜマリナはここに?」
「それはノエル様に会いたかったからに決まっているでしょう?ここ数年間は手紙しかやり取りしていなかったし。あともうひとつ…ノエル王女にお願いが」
にこやかな顔から一転、真剣な顔になったマリナはノエルに頭を下げる
「私とオーディンの唯一の娘、エレナは高飛車で自分が働くなんて微塵も考えていない子でした。そんな娘があなたの侍女をやりたいと言ってきたのです。どうかノエル王女の侍女としてそばにおいて頂けないでしょうか」「…お母様…」
「…」
実の母親はノエルを産んですぐに死に、義理の母であるリナリアは一切愛情をくれなかった。
そんな中身分は違いながら可愛がってくれたのはオーディンとマリナだった。
特に甘えられる女性がほとんどいなかったノエルにとってマリナは母親代わりだった。
そのマリナが頭を下げている。
「ボソッ)断れるわけないじゃない」
仕方がない、とりあえず本人がどれくらい本気か試させてもらおう。
中途半端な気持ちでやられると迷惑だ
「エレナ·レジーナ·スフィア」
「っ、は、はいっ」
「お前は最後まで私に仕えられる?これから私はこの国に革命をおこす。そのためにも血に染まることは避けられない。お前は地獄まで私についてこられる?」
さあ、どう出る。
私を支持する者達はみんな全てを懸けて革命を遂行しようとしている。
半端な覚悟のものは誰ひとりとしていない。
半端者は必要ない
「どこまでもお供いたしますわ」
「エレナ、なぜ突然そんな考えになったのだ」
そうだ、オーディンの言うとおり、今まで嫌っていた人物に仕えたいだなんて理解不能だ
「…昨日助けていただいた時、ノエル王女は空中で私を受け止めました。その動きは落ちこぼれ王女のそれではありませんでした。ですから貴方様は本当の姿を隠しておられるのだと思ったのです。そして私は…私は貴方様の本当の姿を知りたいと思ったのです。」「ただ本性が知りたいのなら友人として親しくすればいずれ分かるのでは?」
「ノエル王女のおっしゃる通り、それでも構わないと思いました。しかし、ここまで頑なに隠すならば簡単にはわからないと思ったのです。ですから1番近くでお仕えできる侍女になろうと思ったのです!」
--この子なりに考えた結果がこれならいいのではないか、
ノエルはそう考えた。
しかしノエルにはリースという侍女がもういる。
王女に侍女が1人というのは少ないが完全に信頼できるものしか側におかないノエルにとって身の回りの世話をするのはリースだけで十分だった。「私にはもうリースという侍女がいる。だから…」
「分かっています!でも、どんな形でもいいんです!!側においてください!」
「…はぁー、分かった。とりあえず1ヶ月な。1ヶ月で役に立たなかったらクビっことで」
「…っ、ありがとうございます!!このエレナ、誠心誠意お仕えいたします!」
「っ、エレナ…、ノエル様!私は今日初めて聞いたんですよ!?なにも今日決めなくても…」
「あなた、エレナが決めたことなのよ?応援してあげましょう?」
「しかし…」
「あなた、往生際が悪いわよ」
「…ノエル様、1ヶ月エレナをよろしくお願いいたします。」「ああ」
そこでノエルはニヤリと笑いエレナを見る
「まぁ、せいぜいゼノにいじめられるといい」
「っ、ノエル王女、それはどういう」
「おい、エレナ·スフィア」
「…あなたは…ノエル王女の執事」
「ゼノンだ。ノエル様のもとで働くなら私の指示に全て従ってもらう。いいな」
「…なんでよ!!あなた、私より身分は下でしょう!」
「新入りが口ごたえするな」
「うっ、…分かりました」
「これに1ヶ月耐えれたらたいしたものだよ」
「エレナは耐えれない気がするわ」
「まぁマリナ、死なないようには見張っとくよ」
「…ええ、お願い」とりあえずエレナをリースのもとに連れていくといって、ゼノとエレナは大広間を出ていった。
「ノエル王女、娘をよろしくお願いいたします」
改めて頭を下げた2人。
「必ずエレナを危ない目に合わせないと誓おう」
「ノエル様、ビシバシ鍛えてやってくださいね」
「フッ、分かった。ゼノに伝えておこう」
エレナがどれくらいの能力を秘めているかわからない。
それに私は昨日まで嫌われていた。
この先どうなるか分からないけれど、これからを楽しみにしている自分がいた。スフィア侯爵夫妻と分かれたあと、ノエルはバルコニーに向かった。
バルコニーには誰もおらず、昨日のように月と星が輝いている。
「よお、第二王女」
「…第二王子」
「「…」」
気まずい沈黙が流れる
「今日は驚いた。お前がまさか…」
「隠しててごめん、友人に隠し事なんて…。やっぱり友人になるべきじゃなかったのだろうか」
「確かに隠し事されて嬉しい奴はいないと思う。でも友人といっても昨日なったばかりなんだ。まだお互いのこと全然知らない。…それに誰だって言えないことの一つや二つあるさ」「…うん」
「なあ、お前の目的教えてはくれないか?」
第二王子に目的を教える。それは果たして許されるのだろうか。
他国の王子に…
「…少しだけなら」
「構わない、ありがとう」
そう言って微笑む第二王子に戸惑う。
しかし、ここで話すと誰がいるかわからない
「…庭に行こ」
「ああ」
----
--
フェリシア王国の王宮の庭ではいつもたくさんの花が咲き乱れている。
「…単刀直入にいう。私は王を廃し、国の上層部の古狸達を一掃する。そのためなら内乱になっても構わない」「それって…」
「そう、革命といえば聞こえはいいけどつまりはクーデター。これから私はこの国にクーデターを起こし、国を大混乱に陥らせる大罪人になる」
「っ、それはお前が死ぬ可能性が大きいじゃないか!!」
「私が殺されようと殺されまいと、次期国王はスルト兄様。私は今の上層部さえ潰せれば…」
「…」
そう、私はゼノにさえ言っていないけれど、このクーデターで死ぬつもりなんだ
「…なあ、国民はどうなる」
「国民は昔から私に良くしてくれる。だから、多少の犠牲はでると思う。でも国民のみんなは大切だから守ってみせる」
「それって国民はお前を大事にしてくれているってことだろ?大事にしてきた王女が死ねば国民がどれだけ悲しむかは考えねえのかよ!?」
--!?
「国民のみんなは悲しんでくれるのだろうか…」
「悲しむ」
「…」
「なあ、革命を起こすなんてそう簡単に決めれるものじゃない。それに今日の夜会をみている限り、かなりお前の味方はいる。そこまで集めるのも決して簡単じゃなかったはずだ。ここまでやってきたお前なら、お前自身を含め犠牲者を出さない計画をたてればいいじゃないか」
「…犠牲者を出さない…」
「ああ、そうだ」…確かにそうかもしれない。
考えたことなかったな。私が死ねば国民が悲しむか…
悲しむかもしれないし、悲しまないかもしれない。でも国民から多くの犠牲は出したくない。
--不思議だな。第二王子はムカつく奴だと思っていたけど、私とは違う視点から物事を見てくれる。
こんな奴がそばにいるのもいいかもしれない。
「…アゼル」
「…え?」
「アゼル…、ありがとう」
「あっ、ああ」
「どうした?」
「いや、これからよろしくな、ノエル」
「うん」
--ちゃんと友人になれたのはきっとこの日だった
昼間城下で第二王女が革命を宣言するという騒ぎが起こったものの、夜の王宮では予定通り舞踏会が行われていた。
普通であれば中止になりそうなものだが今は他国からも大勢の賓客が来ている。
何事もなかったようにすることで昼間の出来事を少しでも人々の記憶から消し去りたいと国王たちは考えた。
さらに、第二王女ノエルの支援をする貴族達を炙り出す目的もあった。
貴族達はいつも以上に気を張って談笑している。
相手がいったい誰についているのかを見定めるためだ。気づけば大広間は三つのグループに分かれていた。
一つは国王を支持するグループ、二つめは第二王女ノエルを支持するグループ、そして三つめはどちらにつけばよいか悩んでいるグループであった。
国王派は王女派の数が意外と多いことに驚いていた。
なによりも、蔑ろにはしないものの、決して第二王女に好意的ではなかったスフィア侯爵が王女派の元にいることが驚きであった。
他にも、かなり権力を握っている貴族や騎士団の人間が王女派であることが発覚し、王女側につこうかと思案する者も多くいた。
ガチャツ
「第二王女、ノエル様がおつきになられました。」
衛兵の声が大広間に響きわたった途端、大広間は水を打ったように静かになった
誰もが声を発さず、入口を凝視する中、ノエルは堂々と大広間に入ってきた。
今まで大広間にいてもうつむいているだけだった第二王女の姿は見る影もなく、誰よりも美しい王女の姿がそこにはあった。
透き通るように白い肌、艶やかな髪、何より目を引くのはその赤い瞳だった。
見るもの全てを惹きつけるその赤い瞳は強い意志をたずさえている。
「ノエル王女、」
「オーディン、こうして直接話すのは久しぶりだな。マリナは元気か?」
「…元気もなにも、元気がありすぎるといいますか…」
「クスッ)元気そうでなにより。これからお前達にはたくさん迷惑をかける。それでも付いてきてくれるか?」
その言葉に王女派の者達は全員頷く。
「我らは全員貴方様に救われた身。この命ある限り貴方様にお仕えいたします」
スフィア侯爵が代表してそう誓うと、王女派の者達は全員ノエルのもとに跪いた
「お前達は大切な仲間。決して無駄死にさせたりしない」
「大広間においでの皆様、お初お目にかかります、フェリシア王国第二王女のノエルです。昼間はお騒がせして申し訳ございませんでした。今夜はパーティーをゆっくりお楽しみください」
ノエルがそう言うと静まり返っていた大広間は、パーティーであったことをいま思い出したかのように賑やかさを取り戻した。
「お前達もパーティーに戻りなよ」
ノエルが声をかけると王女派もパーティーに戻っていった。
「…ふぅー、こんなに大勢の前で話すのは初めてかも」
「お疲れ様でございます。」
「オーディンもどっか行ってきたら?」
「そんなに私のことを追い出したいので?」
「そんなことないけど」
「お父様、」
「ほら、娘が来たぞ」
「エレナ、ノエル様に挨拶なさい」
「オーディンいいってば、」
「…いえ、ご挨拶させてください。ノエル王女、改めましてオーディンが娘、エレナにございます。本日はお話があります」
思わずノエルはオーディンを見るが、話というのはオーディンも初耳のようで眉間にシワがよっている。
「…話というのは?」
「はい、私を…私を貴方様の侍女にして頂きたいのです!!」
--「えっ?」
「昨日は危ないところを助けていただいて本当にありがとうございました。そして今までの非礼をお許しください。」
「…それは構わないのだけれど、」
「今までさんざん酷いことをしてきたのは分かっています!でも私は貴方様の侍女になりたいと昨日強く思ったのです!ですからお願いします!私を貴方様の侍女にしてください!!」
今までさんざん悪口を言っていたエレナに突然そんなことを言われるとはノエルも思わなかった。
困惑したノエルは助けを求めるようにオーディンを見る
「、オーディン、このことは…」
「初耳です。エレナが侍女になりたいなど…!」
次にノエルは横に控えていたゼノンに声をかける
「ゼノ、どうしよう」
「どうするもなにも、あんなにノエル様を酷く言っていた女ですよ?協力者の娘とはいえ今すぐ処刑すべきかと」
「…」
--ダメだ。ゼノは過激すぎる
ノエルが途方に暮れているとき--
「私からもお願いいたしますわ、ノエル様」
「っ、オーディン!!マリナが来ているなんてお前一言も…!」
「ノエル様、そんなこと言わないでちょうだい」
「うっ、マリナ…」
「…申し訳ございません、ノエル様。マリナがどうしてもというので…」「…相変わらずスフィア家の支配者はマリナであることがよく分かった」
「…」
「お母様!どうしてこちらに?お手紙を領地の方に送りましたのに」
「大丈夫よ、手紙を貰ってすぐにこちらに向かったの」
「来なくてよかったのに…」
「ノエル様、なにかおっしゃりました?」
「…イエ、ナンデモナイデス」
--私、ノエルはオーディンの妻であるマリナ·エレン·スフィアが嫌いではない、嫌いではないのだが…
なぜか逆らえない。
「オーディン、せめて自分の妻ぐらいコントロールしてくれ」
「…国をコントロールすることの方が簡単です」マリナ·エレン·スフィア--前スフィア侯爵家当主の唯一の子供であり、オーディンを婿養子として迎えた。
侯爵家当主はオーディンであるが、スフィア侯爵家でマリナに逆らえるものは誰もいない。
真の権力者はマリナなのだ
「--それで、なぜマリナはここに?」
「それはノエル様に会いたかったからに決まっているでしょう?ここ数年間は手紙しかやり取りしていなかったし。あともうひとつ…ノエル王女にお願いが」
にこやかな顔から一転、真剣な顔になったマリナはノエルに頭を下げる
「私とオーディンの唯一の娘、エレナは高飛車で自分が働くなんて微塵も考えていない子でした。そんな娘があなたの侍女をやりたいと言ってきたのです。どうかノエル王女の侍女としてそばにおいて頂けないでしょうか」「…お母様…」
「…」
実の母親はノエルを産んですぐに死に、義理の母であるリナリアは一切愛情をくれなかった。
そんな中身分は違いながら可愛がってくれたのはオーディンとマリナだった。
特に甘えられる女性がほとんどいなかったノエルにとってマリナは母親代わりだった。
そのマリナが頭を下げている。
「ボソッ)断れるわけないじゃない」
仕方がない、とりあえず本人がどれくらい本気か試させてもらおう。
中途半端な気持ちでやられると迷惑だ
「エレナ·レジーナ·スフィア」
「っ、は、はいっ」
「お前は最後まで私に仕えられる?これから私はこの国に革命をおこす。そのためにも血に染まることは避けられない。お前は地獄まで私についてこられる?」
さあ、どう出る。
私を支持する者達はみんな全てを懸けて革命を遂行しようとしている。
半端な覚悟のものは誰ひとりとしていない。
半端者は必要ない
「どこまでもお供いたしますわ」
「エレナ、なぜ突然そんな考えになったのだ」
そうだ、オーディンの言うとおり、今まで嫌っていた人物に仕えたいだなんて理解不能だ
「…昨日助けていただいた時、ノエル王女は空中で私を受け止めました。その動きは落ちこぼれ王女のそれではありませんでした。ですから貴方様は本当の姿を隠しておられるのだと思ったのです。そして私は…私は貴方様の本当の姿を知りたいと思ったのです。」「ただ本性が知りたいのなら友人として親しくすればいずれ分かるのでは?」
「ノエル王女のおっしゃる通り、それでも構わないと思いました。しかし、ここまで頑なに隠すならば簡単にはわからないと思ったのです。ですから1番近くでお仕えできる侍女になろうと思ったのです!」
--この子なりに考えた結果がこれならいいのではないか、
ノエルはそう考えた。
しかしノエルにはリースという侍女がもういる。
王女に侍女が1人というのは少ないが完全に信頼できるものしか側におかないノエルにとって身の回りの世話をするのはリースだけで十分だった。「私にはもうリースという侍女がいる。だから…」
「分かっています!でも、どんな形でもいいんです!!側においてください!」
「…はぁー、分かった。とりあえず1ヶ月な。1ヶ月で役に立たなかったらクビっことで」
「…っ、ありがとうございます!!このエレナ、誠心誠意お仕えいたします!」
「っ、エレナ…、ノエル様!私は今日初めて聞いたんですよ!?なにも今日決めなくても…」
「あなた、エレナが決めたことなのよ?応援してあげましょう?」
「しかし…」
「あなた、往生際が悪いわよ」
「…ノエル様、1ヶ月エレナをよろしくお願いいたします。」「ああ」
そこでノエルはニヤリと笑いエレナを見る
「まぁ、せいぜいゼノにいじめられるといい」
「っ、ノエル王女、それはどういう」
「おい、エレナ·スフィア」
「…あなたは…ノエル王女の執事」
「ゼノンだ。ノエル様のもとで働くなら私の指示に全て従ってもらう。いいな」
「…なんでよ!!あなた、私より身分は下でしょう!」
「新入りが口ごたえするな」
「うっ、…分かりました」
「これに1ヶ月耐えれたらたいしたものだよ」
「エレナは耐えれない気がするわ」
「まぁマリナ、死なないようには見張っとくよ」
「…ええ、お願い」とりあえずエレナをリースのもとに連れていくといって、ゼノとエレナは大広間を出ていった。
「ノエル王女、娘をよろしくお願いいたします」
改めて頭を下げた2人。
「必ずエレナを危ない目に合わせないと誓おう」
「ノエル様、ビシバシ鍛えてやってくださいね」
「フッ、分かった。ゼノに伝えておこう」
エレナがどれくらいの能力を秘めているかわからない。
それに私は昨日まで嫌われていた。
この先どうなるか分からないけれど、これからを楽しみにしている自分がいた。スフィア侯爵夫妻と分かれたあと、ノエルはバルコニーに向かった。
バルコニーには誰もおらず、昨日のように月と星が輝いている。
「よお、第二王女」
「…第二王子」
「「…」」
気まずい沈黙が流れる
「今日は驚いた。お前がまさか…」
「隠しててごめん、友人に隠し事なんて…。やっぱり友人になるべきじゃなかったのだろうか」
「確かに隠し事されて嬉しい奴はいないと思う。でも友人といっても昨日なったばかりなんだ。まだお互いのこと全然知らない。…それに誰だって言えないことの一つや二つあるさ」「…うん」
「なあ、お前の目的教えてはくれないか?」
第二王子に目的を教える。それは果たして許されるのだろうか。
他国の王子に…
「…少しだけなら」
「構わない、ありがとう」
そう言って微笑む第二王子に戸惑う。
しかし、ここで話すと誰がいるかわからない
「…庭に行こ」
「ああ」
----
--
フェリシア王国の王宮の庭ではいつもたくさんの花が咲き乱れている。
「…単刀直入にいう。私は王を廃し、国の上層部の古狸達を一掃する。そのためなら内乱になっても構わない」「それって…」
「そう、革命といえば聞こえはいいけどつまりはクーデター。これから私はこの国にクーデターを起こし、国を大混乱に陥らせる大罪人になる」
「っ、それはお前が死ぬ可能性が大きいじゃないか!!」
「私が殺されようと殺されまいと、次期国王はスルト兄様。私は今の上層部さえ潰せれば…」
「…」
そう、私はゼノにさえ言っていないけれど、このクーデターで死ぬつもりなんだ
「…なあ、国民はどうなる」
「国民は昔から私に良くしてくれる。だから、多少の犠牲はでると思う。でも国民のみんなは大切だから守ってみせる」
「それって国民はお前を大事にしてくれているってことだろ?大事にしてきた王女が死ねば国民がどれだけ悲しむかは考えねえのかよ!?」
--!?
「国民のみんなは悲しんでくれるのだろうか…」
「悲しむ」
「…」
「なあ、革命を起こすなんてそう簡単に決めれるものじゃない。それに今日の夜会をみている限り、かなりお前の味方はいる。そこまで集めるのも決して簡単じゃなかったはずだ。ここまでやってきたお前なら、お前自身を含め犠牲者を出さない計画をたてればいいじゃないか」
「…犠牲者を出さない…」
「ああ、そうだ」…確かにそうかもしれない。
考えたことなかったな。私が死ねば国民が悲しむか…
悲しむかもしれないし、悲しまないかもしれない。でも国民から多くの犠牲は出したくない。
--不思議だな。第二王子はムカつく奴だと思っていたけど、私とは違う視点から物事を見てくれる。
こんな奴がそばにいるのもいいかもしれない。
「…アゼル」
「…え?」
「アゼル…、ありがとう」
「あっ、ああ」
「どうした?」
「いや、これからよろしくな、ノエル」
「うん」
--ちゃんと友人になれたのはきっとこの日だった