Chinese lantern
「これは蛇神様。本日もよろしゅうお願い申し上げます」

 輝血に気付いた役人が、挨拶しつつ刑場をぐるりと囲む柵の中に招き入れる。

「今日はお一人なので?」

「え」

 くるりと後ろを向いても、ソラの姿はない。

「あ、もう始まりまする」

 慌てた輝血には気付かず、役人は今しも振り下ろされようとしている刀の元へと輝血を追い立てる。
 魂送りはぼやぼやしていられないのだ。

 しかも今日は人数が多い。
 役人にも余裕がないのだろう。

「ちょ、ちょっと待っ……」

 ソラがいないまま処刑が行われれば、魂送りに失敗する。
 が、役人はそんなことまで知らないので、刀は非情にも土壇場に座った男の首に吸い込まれた。

 こうなったら、悪鬼が現れる前に送ってしまうしかない、と輝血はほおずきを掲げて血を噴く死体に近付いた。
 が、すぐに足元の土が盛り上がり、現れた悪鬼が、土壇場の死体を認める。

 そして、たった今、もわんと出て来た魂に目を止めた。
 輝血の顔が青ざめる。

 悪鬼が輝血(だか亡者の魂だか)に向かって突進してきた途端、びゅっと一陣の突風が輝血の脇をすり抜けた。
 ほぼ同時に、しゃっという鞘走りの音と共に、銀の閃光が一回転する。
 伸ばしていた悪鬼の丸太のような腕が、ぼとりと地に落ちた。

 ほおずきを握り締めたまま固まっていた輝血が目を見張る。
 輝血の前に立ちはだかって、迫る悪鬼に刀を振るっているのは、二十歳半ばの青年だ。
 白木の柄の刀は、大きな悪鬼の首を刎ねた。
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