Chinese lantern
「おお、さすがソラ殿」

 輝血の傍にいた役人が、感嘆の声を上げる。
 それに我に返り、輝血は悪鬼に襲われることなく浮いている魂を送っていった。
 役人の刀が最後の一人の首を落とすと同時に、ソラの刀も何体目かの悪鬼を切り裂いた。

「お見事。ご苦労でありました」

 役人が言った言葉に振り向いたのは、少年のソラ。
 右手に下げた刀の切っ先が、地面に着いている。
 周りの役人たちも、一瞬、おや? という顔をした。

「もーっ! 輝血がとっとと先に行くから、遅れたじゃないかー。迷うところだったんだからねーっ!」

 周りの惨状にも、皆の不思議そうな視線にも気付かず、ソラは輝血に顔を向けるなりきゃんきゃんと喚く。
 甲高い声で、てててーっと駆け寄ってくるソラは、見間違えようもない小さな子供だ。

「俺がいないと輝血だって危ないんだから、勝手に行かないでよ。俺は行き先わかんないんだからね!」

「……わからないわりには、ちゃんと来れたじゃないか」

 役人に軽く頭を下げ、歩き出しながら輝血が言うと、ソラは、えへん、と胸を張った。

「輝血が危ないとなれば、俺はどこにだって現れるのさ」

 嬉しそうに言う。
 それを背中に聞きながら、輝血はずんずんと進む。
 後ろに聞こえる足音は小走りだ。

「そんなちびっこに言われたって説得力ない」

 ぼそ、と悪態をついた輝血は、後ろの足音がいつもと少し違うことに気付いた。
 時々、かりかり、と何かを擦る音が混じっている。

 この音は、刀の鞘だ。
 やはり鞘の切っ先が、地面に着いているのだ。

---また小さくなった---

 前を向いたまま、ぎゅ、と輝血は唇を噛んだ。
 前は輝血が早足で歩いても、ソラは常に横にいた。
 遅れることなどなかったのに、今は小走りでも背後だ。
 このままでは、そのうち輝血が抱えて行かねばならなくなるのではないか?

 ぴたり、と輝血の足が止まった。
 そして、くるりと振り向く。
 小さなソラがすぐに追いつき、ふぅ、と息をついた。

「ほら」

 輝血がぶっきらぼうに片手を出す。
 ソラは一瞬きょとんとした。

「また離れたら帰れないだろ」

 輝血の言葉に、ぱっとソラの顔が輝いた。
 そして、きゅ、と差し出された手を握る。
 その手の小ささに、またも輝血の心が、ちくりと痛んだ。
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