Chinese lantern
第三章
 そういえば、生前のソラはどういった人物だったのだろう?
 今更ながらにそう思い、輝血は当時の記憶を辿ってみた。

 確かどこかの辻で斬られて死んでいた。
 当時は護衛がなかったから、突発的な死のみ輝血が派遣されていたのだ。

---とはいえ、あいつ、わっちを見るなり迫って来たもんなぁ---

 状況とか、全く覚えていない。
 迫る血まみれの侍に度肝を抜かれた、ということしか頭にない。

---でも大人だった---

 総髪の侍だった。
 ということは、浪人だろうか。

 とはいえ輝血は元々山間の村の農家の娘だったので、街中のことなど知らないし、侍を見ることもなかったので、見てくれどうこう、というのはほとんどない。
 この蛇神の祠に来て初めて、街中や城勤めの侍などのことを知ったぐらいだ。

---あれ、もしかして普通だったら、わっちとソラって身分が違う? お侍なんだったら、農家の娘なんて嫁に貰えないよね---

 そんなことを考え、自分の考えに一人で焦る。
 ソラは初めて会ったときから輝血を求めた。
 だが如何せん死んでいるのだ。

 死んでから知り合ったので、求める、と言っても嫁になれ、と言われたわけではない。
 ただ傍にいたい、と言って送られることを強固に拒否した。
 単に死後の世界に行くことが嫌だっただけかとも思ったが、それだけのために人の輪廻の輪から外れることができるだろうか。

 送られることを拒否した魂は輪廻の輪から外れ、魂そのものが消滅するという。
 来世がなくなるのだ。

 ただ傍にいたいというだけで、そんなことを受け入れられるものだろうか。
 いくら傍にいたいと願ったところで、送られてしまえば死後の世界に入った瞬間に、そんな気持ちは霧散する。
 全ての記憶が失われるのだから、輝血のことだって忘れるのだ。

 だからいつまでも忘れられずに苦しむことはない。
 それにそもそも、会ったばかりの輝血に、何故そこまで強烈に執着するのか。
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