Chinese lantern
「この池、俺はオタマジャクシ捕ったりして遊ぶけど、別にそんな周りを映すほど澄んでないよ」

「だって……」

 輝血にはまるで、池の水面は鏡のように見えるのだ。
 それなのに、ソラには何も見えないという。

「小童は心が澄んでおらぬからの」

 不意に声がし、二人が顔を上げると、主様が奥の院の渡殿からこちらを眺めていた。

「人の心は汚いものじゃ」

「失礼な。俺にはもうそんな欲はないよ」

「そうか? 己は欲の塊じゃろうが。輝血を我が物にしたいと思っておるから、ここにおるのじゃろう?」

「む。それもそうか」

 主様の指摘に、あっさりとソラが頷く。
 だが輝血は少し胸の辺りがむず痒くなるだけで、盛大に照れるといったことはない。
 こんな小さな子供に言われても、残念ながら何とも思わないのだ。

 そもそも小さな子供が言うのと、それなりの大人が言うのとでは意味が違う、と思いつつ、輝血は池に目をやった。
 立派な大人のソラが映っている。
 そういえば、じっくり本来の姿を見たのはいつぶりだろう。

 一番初めは血まみれだったので全然見てないし、それからも初めのトラウマで正視しなかった。
 多分、少し小さくなって本来の姿でなくなってからしか、しっかりとソラを見なかったのではなかろうか。

---わっち、よっぽど血まみれのソラが怖かったんだな---

 つくづく思う。
 姿が変わらないと見れないなど、よっぽどだ。

 しかし考えてみると、かなり長い間一緒におり、且つソラはずっと輝血を好いていたというのに、そのソラを一切見なかったなど結構な仕打ちではないだろうか。

 ソラの変化は人のそれよりも穏やかなので、普通の人が歳をとる速度の逆回しで若返っているのではない。
 それよりも随分長い時間をかけて、ゆるゆると若返っている。

 ということは、相当長い間、酷い態度を取って来たということになる。
 ちょっと輝血は自己嫌悪に陥った。
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