Chinese lantern
第四章
 それからしばし時が流れたある日、いつものように本殿の鈴が鳴った。
 程なく回廊を伝って、主様がやってくる。
 いつもは輝血にほおずきを渡すだけで本殿に帰っていく主様だが、その日は奥の院の座敷に座り、輝血を前に呼んだ。

「おぬしもそろそろ蛇神としての力が満ちて来た頃であろう。力が強くなれば、護衛を頼まずとも悪鬼など蹴散らせる」

 言いつつ、主様は手を輝血の額に翳した。
 触れていないのに、ひやりとした空気を額に感じた。

「ソラの護衛は、もういらないってこと?」

「どのみち、あ奴の護衛は、此度が最後じゃ」

 主様の言葉に、輝血は知らず唇を噛んだ。
 気付いていた。
 ソラはもう幼児である。
 喋ることもままならない。

「のぅ輝血」

 主様が、部屋の隅に飾られた蛇いちごを眺めながら言った。

「普通の護衛はの、悪鬼を斬るときも、別に姿が変わったりせぬのだよ」

 え、と輝血は主様を見た。
 ソラは悪鬼に対して刀を振るうときだけ、おそらく本来の、大人の姿に戻るのだ。

 だがそれは言ってしまえば一瞬。
 悪鬼を斬る一瞬だけの姿だ。
 それに気付いたのは、ソラが明らかに小さくなってからだが。

「だってソラ、多分毎回大人の姿で悪鬼を斬ってたよ? 大体、でないとあんな大きい鬼、斬れないでしょ? 今ソラ、刀持つのも大変そうだし」

 刀は結構重いものだ。
 子供が振り回せるものではない。
 輝血はソラしか知らないので、護衛とはそういうものだと思っていた。

「姿が変わらないのなら、護衛できる期間なんて、ちょっとしかないんじゃないの?」

「というより、そもそも人の魂がなる護衛など、普通はない。言うたじゃろ、人は輪廻の輪から外れるものではない。本来蛇神の卵の護衛は、動物がするものなのじゃ」

「えっ」
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