Chinese lantern
「お前はこっちだよ」

 ほおずきを翳しながら、輝血は罪人の魂を連れて歩き出す。
 それを、土中から湧き出て来た悪鬼が追おうとした。

「おいおい、お前の相手はこっちだよ」

 青光りする刀身を突き付けて、ソラが悪鬼の前に立ちふさがる。
 だが見た目はどう見ても子供なので、役人たちも腰が引けているものの、遠巻きに刀を構えて鬼に向けた。

「信用ねぇな」

 ち、とまた舌打ちし、ソラは悪鬼を睨んだ。
 もっとも無理もない、とも思う。
 この身体は、随分と小さくなってしまった。

「だけど、お前なんぞにゃやられねーよ」

 甲高い声で言うと、ソラはいきなり間合いを詰めた。
 びゅ、と刀を振り、鬼の胸を浅く裂く。

 悪鬼が痛みのためか怒りのためか大口を開け、振り被った手を振り下ろした。
 小さなソラなど、その一撃で潰されそうだが。

「甘いよ」

 紙一重で避けると同時に、ソラは刀を間近に迫った腕に振り下ろした。
 まるで大根のように、すぱっと鬼の腕を切断する。

「ふむ、これでお前の固さはわかった」

 呟き、地を蹴る。
 空中で、ソラは抜いていた刀を一旦納刀した。

 空気が、また変わった。
 見守る役人たちが、目を見開いた。
 宙を舞うソラが、二十歳そこそこの青年に見えたのだ。

「あばよっ」

 鬼の頭上まで飛び上がったソラが、逆さまの状態で言った。
 左手で握った白鞘から、銀色の閃光が走る。

 ソラはそこから半回転して鬼の背後に降り立った。
 とん、と足が地面についた瞬間、ずる、と鬼の首がずれた。

 ゆっくりと落ちる頭を追うように、身体も頽れる。
 鬼の身体からは血が出ることもなく、倒れた後は細かな砂となって、その場に小さな山を築いた。

「お、お見事でござった」

 は、と我に返り、初めに二人を出迎えた役人が声をかける。
 そして納刀するソラをまじまじと見た。

 先は確かに大人に見えたが、今はやはり、初めに見た子供だ。
 この不思議さ、さすが蛇神様、と感心する役人に小さく頷くと、ソラは、ぱっと顔を上げた。

「輝血ーっ! 待ってよーっ!!」

 役人たちの尊敬をぶち壊す勢いで、ソラは叫ぶと、たたたーっと輝血の後を追って駆け去っていった。
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