Chinese lantern
 この国では死者が出ると、その魂を食らう悪鬼が出現する。
 悪鬼に魂を食われた死者はあの世に行けず、悪鬼になって死者を狙う。
 死者を本来あるべき場所に導くのが、蛇神の持つほおずきの灯りだ。

 だが導く蛇神がまだひよっこの場合は攻撃性がないため、悪鬼を倒す従者が必要である。
 そういう場合は蛇神と従者、二人一組で仕事にあたる。
 といっても輝血の場合は、蛇神の弟子と亡者なのだが。

 輝血は元々、この地に住む村娘だった。
 名は何といったか。
 それが、十六の歳に蛇神への贄になった。

 当時はこの地に大きな穴があり、毒蛇の壺と呼ばれていた。
 そこに放り込まれたのだ。

 穴に落ちた後のことは、よくわからない。
 あっという間に意識が遠のき、気が付いたらこの祠の板の間に寝ていた。
 もっとも肌がやたらと白くなり、目が血のように赤く変わってはいたが。

 そしてその瞬間から、蛇神の弟子・輝血となったのだ。

 一方ソラのほうは亡者である。
 輝血が村娘として死んだ少し後に、どこぞの城下で斬られて死んだ。

 通常突発的な事故死でも蛇神は事前にわかるが、この事案は何故か想定外だったようだ。
 回収に漏れて悪鬼に食われるところを、見習い蛇神の輝血がたまたま気付き、斬られた侍の元に駆け付けた。

 突発的な事故で死亡した者の場合、悪鬼はその辺にあらかじめ潜んでおくことができないため、食らいに来るのに時間がかかる。
 不慣れなまま輝血が侍の死体の元に降り立ったところ、その魂はやたらとしっかりしていた。
 二十歳半ばだろうか。

 ここまでしっかり人物を把握できるなど珍しいのだが、輝血はまだ魂送り(たまおくり)の場数を踏んでいない。
 そういうこともあるのだろう、と思ったのだが。

 侍は、輝血に惚れてしまった。
 成仏するのを拒み、輝血を熱心に口説きだしたのだ。
 斬られたときの、血まみれの姿で。
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