Chinese lantern
 輝血の恐怖たるや、相当なものだっただろう。
 急いだせいで、ほおずきも落としてしまった輝血は、血まみれの男に追いかけられ、泣きながら主様のところに駆け戻った。

 結果的には(というかソラと主様的には)それが良かった。
 ほおずきに導かれた魂(亡者)は、別に主様のところに行くことなく、あるべき場所に送られる。

 輝血が侍を連れたまま(というか追いかけられた状態で)主様のところに戻ったお陰で、図らずも侍は主様と相まみえることができたわけだ。

 主様は成仏するより輝血の傍にいたい、という侍を、じっと見た。
 剣の腕は相当強そうだ。
 まだまだひよっこ蛇神である輝血の護衛には打ってつけではないか?

 成仏したくないと言うほど輝血の傍にいたいのであれば、何としても守ってくれるだろう。
 蛇神が悪鬼に食われることはないが、魂送りに失敗しまくっても困るのだ。

 とはいえこのまま輝血の傍にいるだけでは、侍は消滅してしまう。
 基本的に、人が成仏しないことはない。
 送られない魂は彷徨った挙句に悪鬼に食われるか、消滅の道を辿る。

 魂が消滅すると、輪廻の輪からも外れてしまう。
 大方は消滅する前に悪鬼に食われるので、消滅する魂は多くはないが。

 それに何より、魂のまま傍にいても、実体がないのでいくら強くても意味がないのだ。
 輝血の従者とするなら、まずは実体を与えて物理的な攻撃を可能にしなければ。

 ただ蛇神への供物でもない亡者をこちらの世界に止めることは、人である限りどうあっても無理だ。
 侍に蛇神の呪をかけ、亡者から蛇神寄りにしたものの、人であることには変わりない。

 実体を持って輝血の従者にはなれたものの、その身体はまるで人の生を逆回しにしているように、徐々に若返り、今や十を少し出たぐらいの子供の様相だ。
 輝血も元々は人だが、蛇神への供物として人としての生を終えているので、もう人ではないのである。
 正式に供物となるかならないかで、大きな隔たりがあるのだ。
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