Chinese lantern
「やれやれ。刀が白鞘でよかったわい」
奥の院で刀の手入れをしながら、ソラが言う。
この刀は輝血の従者となったと同時に、主様から与えられた。
この社に納められていた刀だ。
社に納められたものなので、刀匠が打ったときのままの、白木の鞘のまま、鍔もない。
だがその分軽い。
「でも鍔がなかったら、攻撃を受け止められないじゃないか」
寝転んで絵草子を読みつつ言った輝血に、ソラは、とんでもない、という顔をしてみせる。
「何言ってんの。悪鬼の攻撃なんざ、俺に受け止められるわけなかろう。昔はともかく、今はすっかりガキになってしまったし」
「んでも……」
言いかけて、輝血は黙った。
鬼を滅する直前には、ソラは初めて会ったときの、青年の姿に見える。
だがそれは気のせいかもしれないのだ。
ソラは人としての摂理を捻じ曲げてここにいる。
その代償が魂の逆回しであり、それが元に戻ることなどない。
「何、輝血。俺のことが心配なの」
不意にソラが、嬉しそうな顔を向ける。
「だってお前がいなくなったら、わっちは毎回魂送りに失敗して、主様に怒られるもん」
「そだねぇ、輝血は悪鬼には敵わないもんねぇ。輝血がお役目を外されて、あっという間に送られてしまったら、俺がここにいる理由がなくなるわ」
ソラが憮然と言う。
ふぅ、と輝血は息をついた。
贄になった輝血は死んだときの姿のまま、今に至る。
実体はあるようでない。
ないようである、というべきか。
ソラの初めのように、完全なる亡者ではないので、物を持つことも可能だ。
だがその身体は生身ではない。
死んだ十六の時のまま、老いもしなければ、ソラのように若返ることもない。
ソラはこのまま行くと、そのうち赤子になってしまうのだろうか。
「何でそこまでして、ここに留まることを選んだのかねぇ」
人の生を逆回しに生きている(?)ソラは、最後どうなるのかわからない。
この地に留まるということ自体が人としてはあり得ないのだから、捻じ曲げた輪廻の輪がどうなっているか。
おそらく来世、というものがなくなったのだと思う。
ただ輝血に惹かれた、というだけで、そこまでしてしまったことを、ソラは後悔していないのだろうか。
奥の院で刀の手入れをしながら、ソラが言う。
この刀は輝血の従者となったと同時に、主様から与えられた。
この社に納められていた刀だ。
社に納められたものなので、刀匠が打ったときのままの、白木の鞘のまま、鍔もない。
だがその分軽い。
「でも鍔がなかったら、攻撃を受け止められないじゃないか」
寝転んで絵草子を読みつつ言った輝血に、ソラは、とんでもない、という顔をしてみせる。
「何言ってんの。悪鬼の攻撃なんざ、俺に受け止められるわけなかろう。昔はともかく、今はすっかりガキになってしまったし」
「んでも……」
言いかけて、輝血は黙った。
鬼を滅する直前には、ソラは初めて会ったときの、青年の姿に見える。
だがそれは気のせいかもしれないのだ。
ソラは人としての摂理を捻じ曲げてここにいる。
その代償が魂の逆回しであり、それが元に戻ることなどない。
「何、輝血。俺のことが心配なの」
不意にソラが、嬉しそうな顔を向ける。
「だってお前がいなくなったら、わっちは毎回魂送りに失敗して、主様に怒られるもん」
「そだねぇ、輝血は悪鬼には敵わないもんねぇ。輝血がお役目を外されて、あっという間に送られてしまったら、俺がここにいる理由がなくなるわ」
ソラが憮然と言う。
ふぅ、と輝血は息をついた。
贄になった輝血は死んだときの姿のまま、今に至る。
実体はあるようでない。
ないようである、というべきか。
ソラの初めのように、完全なる亡者ではないので、物を持つことも可能だ。
だがその身体は生身ではない。
死んだ十六の時のまま、老いもしなければ、ソラのように若返ることもない。
ソラはこのまま行くと、そのうち赤子になってしまうのだろうか。
「何でそこまでして、ここに留まることを選んだのかねぇ」
人の生を逆回しに生きている(?)ソラは、最後どうなるのかわからない。
この地に留まるということ自体が人としてはあり得ないのだから、捻じ曲げた輪廻の輪がどうなっているか。
おそらく来世、というものがなくなったのだと思う。
ただ輝血に惹かれた、というだけで、そこまでしてしまったことを、ソラは後悔していないのだろうか。