不毛な恋の行方



それからは、まずはお別れの準備だ。


彼には理由をつけて会わないようにした。

そしてこのままここに住み続けると
彼にも居場所がバレているので
お腹が大きくなって来たらバレてしまう。


そう思い、新しい家を探した。


仕事は残念だけど
退職することにして
営業本部長に退職届けを提出した。


後1ヶ月でこの職場ともお別れだ。


いつも何か言いたげな彼。

気付かないフリをして、
必要最低限の仕事の話だけをしていた。


普段から職場ではほとんど話さなかったので
避けに避けると過ごすことが出来た。



家はと言うと、今は帰ってない。

近くのお姉ちゃんの家に住ませて貰っている。
元々出張も多く、家を空けがちなお姉ちゃん。

マンションの改装工事で
生活がしにくいと伝えたら
引っ越すまでの1ヶ月、
お邪魔することが出来た。

ちなみにそのまままた
3週間の出張に行ってしまった。


紘都さんからはLINEも連絡も入っていた。



いつか別れを話さなきゃと思うけれど。

今はまだ話せる状態じゃない。



そしてつわりはと言うとひどくなる一方。



とうとう固形物を受け付けなくなった。


毎日忙しいフリをして
グレープフルーツジュースを飲み
夜も食べては吐いてしまっている。



お姉ちゃんがいなくてよかった。


今は仕事以外は寝ていることが多い。

仕事場に着くと
気が張っているせいか
あまり気分が悪くなりすぎず働ける。


だけどどうしても苦手なのが
営業先から帰って来た人達の匂いだ。

臭いとかではなく、
外の空気が入ってくると
どうしても気持ち悪くなる。


「ねぇ、そのちゃん?
もしかして…」
「お願いします!
黙っていてください!!
お願いします!!」


その先を言おうとした
寺西さんの言葉を止めた。



「…そのちゃん。わかった。
だけどどうしても辛くなったら
ちゃんと言うんだよ?
主任も心配してたよ。」


主任という言葉に胸が騒つく。


「…ありがとうございます。」

泣きそうになり、
でも自分で選んだことだからと堪える。


「ねぇそのちゃん?
今日ご飯行こっか。
あ、食べなくてもいいよ。
一人で抱えてるんじゃない?
わたしでよかったら話聞くよ?」

寺西さんの優しさに
涙が止まらなかった。

ラッキーなことに
営業さん達はみんな出ていて
主任も会議中だ。

「…寺西さん、
ありがとうございます。
いつも迷惑ばっかり、すみません。
ありがとうございます。」


寺西さんに抱きしめられ、
少し落ち着くことが出来た。
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