恋人未満のこじらせ愛
驚き顔を上げると、見慣れたあの横顔がある。
そして静かに、口を開いた。


「石見、ごめん。こいつだけは………譲れないんだ。
俺が貰ってく。いいか?」

振り返り、涙で滲んだ視線の先には─微笑んで頷く石見君の姿。


「ちょっと………あ……………」

不意に足が地面から離れる。
持ち上げられて肩に担がれてるのがわかった。

怖くて足をバタバタさせると…「落とすぞ」と静かに囁かれ、仕方なしに抵抗を止める。


「大村!」
遠くから聞こえるこの声は………江浪さん?

「俺帰るわ。石見に何か食わせてやって」

それだけ言うと、私を担いだまま歩いていく。
そのまま歩いていき、人気の少ない裏口でゆっくりと下ろされた。

「理緒」
下ろされると、私の両肩に手を置いて、まっすぐに見つめられる。
視線が合わせられずに俯くと─私の髪に触れる。
結んでいたヘアゴムが外されて、髪が一気にパサッと広がる。

「似合っているけど、嫌だ」
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