恋人未満のこじらせ愛
映画が終わると深夜の三時を過ぎていた。
正直映画の余韻にすごく、すごく浸りたい所だが、どうやって帰ろうかという気持ちが勝っていた。

「いやー、面白かった」

焦る私と違い、大村先輩は呑気に余韻に浸っている。
建物の外に出たが、まだ一面は真っ暗闇。


「先輩、ありがとうございました。えっとじゃぁ…」

「タクシー捕まえて行くか」

そして通りがかったタクシーを捕まえると、中に押し込まれる。
「中井の方までお願いします」
大村先輩がそう指示すると、タクシーは真っ直ぐ走り始めた。


「俺ん家、二千円あれば帰れたから」

へぇそうですか……って。
色々叫びたい声を押さえて、大村先輩を睨み付ける。
先輩はそれに気付いていないのか、さっきの映画の感想をベラベラと話はじめている。楽しそうに。

そして結局二千円もしない距離でタクシーは止まった。
目の前には住宅地によくある低層階のマンション。

「二階だから」と階段を上がる大村先輩。
いや、私はここで帰ると言うべきなのか。

もたもた悩んでいると「早く」と急かされる。
結局行くしか選択肢はないのかと、私は腹をくくって階段を上がり始めた。

──結局そういうことになるんだな

頭の中で、諦めにも似たそんな感情が渦まいていた。
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