恋人未満のこじらせ愛
大村先輩はビールを飲み干し「仕事はどうだ?」と。

「特記する事とかは特にないですね。普通です」

「でも俺はお前が経理って勿体ないと思うけどな」

「どうして?」と聞くと、「ん~…何となく……」と答える。
歯切れの悪い回答。


「そっちはどうなんですか?名古屋はどうだったんですか?」
そう聞き返すと、うーんと一瞬上を見る先輩。

「そうだな…朝起きるのがやっぱキツイな。家帰ってDVD流しながらメシ食って…それで一日終わり。十二時前に寝ないと起きれないから」

思わず吹き出して「どんだけ早寝なんですか」と笑ってしまう。
やっぱり起きれないのか。
『最低でも七時間寝る』と聞いたことがある。
その分頭は良かったし、仕事もできるんだろうけど。

笑いが止まらない私にため息を漏らすと、頭を掴んでぐしゃぐしゃと撫でる。

大きな手。
一瞬にして、『あの時』のことがフラッシュバックする。

─体をなぞる、大きな手。


「髪の毛、伸びたな」

真っ直ぐ見つめる瞳に、吸い寄せられるように動けなくなる。
そして、そっと顔を引き寄せる。

息をする間も与えられず、唇が落ちてくる。
とろけるように、甘い唇。
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