恋人未満のこじらせ愛
育休明けの先輩が二人復帰することと、私の能力を経理部で飼い殺しておくのは勿体ないと、部長からの直々の申し出があった。

「君は確かに経理の仕事は完璧にこなすし、有難い存在だ。
 けどね、まだまだ若いんだ。色んなことに挑戦してみる価値はあると思うけど、どうだい?」

そう言われると、悪い気はしない。
そろそろ単調な仕事に飽きも生じていた。
なので私はあっさりと部署移動を受け入れたのだ。


そして今日、その移動先が発表される。
私を含め、社内の何人かが九月一日より移動になるのだが、それが大々的に発表になるのが今日。
正直、少しだけ緊張している。


ぼんやりとエレベータ待ちをしていると、「菅原さん」と声がかかる。

「おはよう。いよいよ今日だね」と声をかけてくるのは、先輩の佐々木さんだ。
佐々木さんは私より八歳ほど年上で、子持ちのママさんだ。



「おはようございます。はい、少し緊張しています」

「大丈夫だよ、菅原さんならどこでもやっていけるよ。
 でも経理部で一番若手が居なくなるからねぇ…ちょっと華が無くなるわよ」
佐々木さんはそう言ってクスクス笑っている。


確かに経理部は私が一番若手で、ほとんどの人が三十を超えた年齢をしている。
正直な話、一部の出世街道を約束されている人以外は『事務的』作業が多く毎日の見通しが立てやすいので、子持ちの人たちに人気の部署になっているらしいとのことだ。
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