恋人未満のこじらせ愛
「『課長』はやめろと言ったぞ?」

そして私はベッドに倒される。
見上げる先には──切ない表情の、あの顔。

「何て呼ぶんだ?」

「智也…さん……」

「うん、よくできました」

顔をほころばせて、あの甘い唇が落ちてくる。


「俺はずっとこうしていたい」

唇を離すと、いつものように服に手をかける。


─ずっとこうしていたい?

ただ映画を見て抱き合うだけの?
生産性も愛情も…何もない、この関係のまま?


目が合わせられず俯くと、私の顔を覗きこんだ。

「もう一回聞く。俺のこと嫌い?」


嫌いじゃない、決して嫌いではない。
嫌いなのは…………流されてしまう自分だ。

答えられず硬直してると、顎をクイッと持ち上げて…また唇を塞がれる。
激しく、甘い唇で。



「愛してる」


また私は流される。『いつもの夢』の中に。


─ただ、気付いてしまった。

この夢は、毒だ。
徐々に体の内側から蝕まれる、毒だ。


まだ全身を蝕まれる前に、絶ち切らなきゃいけない………。



──それでないと、身も心も持たない。

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