恋人未満のこじらせ愛
振り向いた先に居たのは─あの寝顔の人物。
そう、土曜日の朝に隣で寝ていた人物、そのものだ。


「それは…ていうか、いくらでも伝える術はあるでしょう」

「そうだけどな」

そして再び私の肩をぐいっと引き寄せる。


「罰だよ。勝手に帰るから」

そう耳打ちすると、手を離してにんまりと微笑む。
あれだ。みんなきっと、この笑顔に騙されている。



「ああ菅原さん、それに大村も」
立ちすくむ私に声をかけたのは経理部の先輩男性、江浪さん。
仲良くしゃべるこの二人は同期らしい。


「大村、菅原さんをよろしくな。仲良いんだろ?」

「みっちり鍛えてやるから、任せろ」

そして私の肩に肘を置き、得意げに笑顔を浮かべる。
やっぱりみんな、この笑顔に騙されている。
私ですら、たまにドキっとなってしまうのだから。



「じゃ…そろそろ行きますね…」

無理矢理肩に乗っかっている手を振りほどいて、私は足早に経理部の部屋へと向かった。
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