恋人未満のこじらせ愛
「あれ?錦糸町初めてですか?」
意外と言ったように石見君が聞いてくる。

「こっち側に出るのは初めてなんだよね」

「反対側には映画館ありましたもんね」

「知ってるの?」

「俺、家が北千住の方ですもん。ここまで三十分ぐらいですよ?帰りも半蔵門線で帰りますし」

「へぇ…そうなんだ……」


もはや勝手知ったるという感じの石見君は、サクサクと課長の方を気にする様子もなく歩いていく。
私はと言えば、二人の後ろを確認しながら着いて行っている。


そして目的の商業施設は、徒歩で数分の駅に程近い場所にあった。
決して大規模とは言えない、アットホーム感が漂う三階建てのこじんまりとした施設。

最近この周辺では再開発が進み、色んな新しい施設が増えているのだと言っていた。
あの映画館もリニューアルに伴い、若者に人気のスタイリッシュなファッションビルへと生まれ変わるようだ。

なのでこの施設はどちらかと言うとアットホーム感を出したいらしく、生活に密着した面に力をいれているようだ。一階のお総菜屋さんのラインナップを充実させたり、定期的に食品の物産展などを行ったり…仕事帰りの主婦やサラリーマンが台所代わりに立ち寄れるような工夫をしているんだと聞いている。
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