三途の川のお茶屋さん


「十夜、久しいの。まぁ座ってくれ」

扉の前で無作法にも立ち尽くしたままの俺に、神威様は穏やかに微笑んで、向かいの椅子を指し示す。

内心の思いとは裏腹に、現実問題、俺がここから逃げ出す手段など残されてはいなかった。

俺はその場でひとつ息を吐くと、取り澄ました表情で神威様に頭を下げた。

「神威様、ご無沙汰しております。失礼いたします」

本来、管理報告の相手となるはずの仁王様は同席していなかった。

神威様と向かい合い、しばらくは形式通りの問答を繰り広げる。けれど本題がこれではない事など分かりきってい
た。案の定、一通り管理報告書を埋めた神威様は早々に書面を放り出すと、それまでとは打って変わった真剣な目を向けた。

「十夜、単刀直入に言う」

俺もまた、神威様から視線を逸らさなかった。

「其方の養う娘を、儂に預けてはくれぬか?」



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